モンスター社員を面接では見抜けないリスク ― バックグラウンドチェックが企業を守る理由
企業経営において「人材」は最大の資産であると言われています。どれだけ優れた商品やサービスを持っていても、それを支える人材がいなければ企業は成長できません。そのため多くの経営者は、採用活動に多くの時間とコストを投入し、自社にとって有益な人材の確保に力を注いでいます。
しかしその一方で、採用には常に大きなリスクが伴います。履歴書や職務経歴書に問題がなく、面接でも礼儀正しく受け答えをしていた人物が、入社後に組織へ深刻な悪影響を与えるケースが実際に存在するからです。
近年、企業法務に携わる弁護士や社会保険労務士の間でも、「採用時には見抜けなかった問題社員」「いわゆるモンスター社員」に関する相談が増えていると言われています。問題は、そのような人物の多くが採用時には極めて普通に見えることです。むしろ第一印象が良く、面接担当者から高い評価を得ているケースも少なくありません。
今回は、某企業で実際に発生したノンフィクション事例をもとに、企業が直面する採用リスクの実態と、なぜバックグラウンドチェックが必要なのかについて考えていきたいと思います。

某企業で実際に起きたノンフィクション事例
その企業は慢性的な人材不足に悩んでいました。事業は順調に成長していたものの、人材の確保が追いつかず、現場では一人ひとりの社員に大きな負担がかかっていました。そのため、経験者の応募があった際には大きな期待が寄せられていました。
応募者の履歴書や職務経歴書には特に目立った問題は見当たりませんでした。面接時の受け答えも落ち着いており、過去の職歴についても一応の説明がなされていました。採用担当者も経営者も、「戦力になるだろう」と判断し、採用を決定しました。
ところが、入社して間もなく職場には違和感が広がり始めます。
最初に周囲が気づいたのは、社会人として極めて基本的なコミュニケーションが成立しないことでした。朝出社しても周囲に挨拶をしないのです。同僚が「おはようございます」と声を掛けても無言で通り過ぎることがありました。
もちろん企業側も、いきなり問題視したわけではありません。人見知りなのかもしれない、新しい環境に慣れていないだけかもしれないと考え、しばらく様子を見ることにしました。しかし時間が経過しても改善されることはなく、むしろ周囲との距離は広がっていきました。
さらに業務を任せるようになると、別の問題が表面化します。
提出される資料には誤りが多く、報告内容にも事実誤認が頻繁に見受けられました。単純な入力ミスだけではなく、指示内容そのものを理解していないケースも少なくありませんでした。周囲の社員は丁寧に説明し、再発防止のための指導を行いました。
しかし、その社員は自らのミスを認めようとしませんでした。
明らかな誤りがあることを説明しても、「自分はそのように聞いていない」「指示が曖昧だった」「他の人も同じようなことをしている」と主張し、自らの責任を認めないのです。資料やメールなど客観的な証拠を提示しても、自分の非を受け入れようとしませんでした。
その結果、同じミスが何度も繰り返されるようになります。
通常であれば、失敗を経験することで業務を覚え、改善していくものです。しかしこの社員の場合、ミスを認めないため改善につながりませんでした。指導する側の社員も次第に疲弊し、「何度説明しても伝わらない」「改善する意思が感じられない」という不満を抱くようになりました。
さらに問題を深刻化させたのは、指摘を受けた際の反応でした。
上司が業務上のミスについて説明し、改善点を伝えようとすると突然泣き出してしまうのです。冷静な話し合いができず、感情的になり、会話そのものが成立しなくなります。職場では業務改善のための指導が必要ですが、そのたびに泣き崩れられてしまうと、周囲は必要な指導すら躊躇するようになります。
その一方で、本人は周囲に対して事実と異なる説明を行うこともありました。自分が一方的に責められている、理不尽な扱いを受けているなど、実際とは異なる内容を話すことがあり、社内では混乱が広がっていきました。
経営者としても非常に悩ましい状況でした。改善の機会は何度も与えている。人格を否定するような指導もしていない。それにもかかわらず、職場環境は悪化し続けているのです。
やがて他の社員からも不満の声が上がり始めました。
「あの人のフォローばかりで自分の仕事が進まない」
「注意しても改善されないので精神的に疲れる」
「なぜ会社は何も対応しないのか」
こうした声が増え始めたことで、経営者は問題の深刻さを改めて認識することになりました。
弁護士に相談して分かった現代の雇用問題
状況を重く見た経営者は、顧問弁護士へ相談することにしました。
そこで返ってきた回答は、多くの経営者にとって衝撃的な内容でした。
弁護士によれば、このようなケースは決して珍しいものではなく、近年は全国的に相談が増えているというのです。
企業から業務上の指導や改善要求を受けると、医療機関で診断書を取得する。休職制度を利用する。その後、解雇や雇止めが行われた場合には、労働審判や訴訟へ発展させる。
もちろん、本当に体調を崩している労働者も存在します。しかし一方で、制度の隙間を利用して企業との金銭交渉を目的とするケースが存在することも事実だと説明されました。
さらに弁護士は、採用時に見抜くことの難しさについても指摘しました。
職歴を頻繁に変えている、前職の退職理由が不自然である、面接時に違和感があるなど、いくつかの兆候が見られることはあるものの、それだけで採用を拒否することは容易ではありません。企業としては客観的な理由がなければ不採用判断が難しく、結果として問題を抱えた人材を採用してしまうケースがあるというのです。
また、試用期間があるから安心という考えも危険だと指摘されました。
多くの経営者は試用期間中であれば自由に解雇できると思っていますが、実際にはそうではありません。試用期間中であっても合理的な理由が必要であり、企業には相応の説明責任が求められます。
つまり、一度採用してしまうと企業側が簡単に対応できない場合があるのです。
採用リスクは経営リスクそのものである
採用は単なる人事業務ではありません。経営そのものに直結する重要な意思決定です。
一人の社員を採用するためには、求人広告費、人材紹介料、面接時間、教育コスト、社会保険料など多額の費用が発生します。さらに入社後も研修やOJTに多くの時間が投入されます。
もし採用した人材が期待どおりに活躍してくれれば、それらの投資は十分に回収できます。しかし問題社員だった場合、その投資は損失へ変わります。
しかも損失は金銭面だけではありません。
周囲の社員が業務フォローに追われることで生産性が低下します。職場の雰囲気が悪化します。真面目に働く社員ほどストレスを抱えるようになります。場合によっては優秀な社員が退職を決意することもあります。
経営者の時間も奪われます。
本来であれば事業拡大や営業戦略に使うべき時間が、人間関係のトラブルや労務問題への対応に費やされてしまうのです。
採用リスクとは単なる人事上の問題ではなく、企業経営そのものを揺るがす重大なリスクと言えるでしょう。
さらに近年ではSNSの普及により、社内トラブルが外部へ拡散される危険性も高まっています。事実と異なる情報が発信された場合であっても、企業イメージが損なわれる可能性があります。
だからこそ企業は「採用後の対応」だけでなく、「採用前の予防」に目を向ける必要があるのです。

バックグラウンドチェックが企業防衛の新常識になる理由
では、企業はどのように採用リスクへ備えればよいのでしょうか。
その有効な手段の一つがバックグラウンドチェックです。
バックグラウンドチェックとは、応募者が申告した職歴や経歴に虚偽がないか、重大なトラブル歴がないかなどを、法令を遵守しながら確認する調査のことを指します。
面接は限られた時間の中で行われます。応募者は最も良い状態を見せようとします。そのため、面接だけで人物の本質を見抜くことには限界があります。
しかし、過去の経歴や実績、勤務状況などを客観的に確認することで、採用判断の精度を高めることは可能です。
実際に、多くの採用トラブルは採用後に発覚しています。職歴詐称、経歴の誇張、過去の重大な問題行動、短期間離職の繰り返しなど、事前に把握できていれば採用判断が変わっていたケースも少なくありません。
企業が守るべきものは、経営者だけではありません。
既存社員の働く環境を守ることも重要です。
取引先との信頼関係を守ることも重要です。
企業ブランドを守ることも重要です。
そのためには、「採用してから問題を発見する」のではなく、「採用する前にリスクを把握する」という考え方が必要になります。
一般社団法人企業リスク防衛管理会では、企業が安心して採用活動を行えるよう、法令を遵守した適正なバックグラウンドチェックを提供しています。
人材不足の時代だからこそ、採用のスピードだけを重視してはなりません。企業の未来を守るためには、採用の質を高める取り組みが必要です。
面接だけでは見抜けないリスクがある時代だからこそ、第三者による客観的な確認が企業防衛の重要な手段となっています。
採用後に後悔するのか、それとも採用前にリスクを把握するのか。その選択が、これからの企業経営を大きく左右すると言っても過言ではないでしょう。