日本信用情報サービス株式会社
情報分析部
関口美由紀

本稿で整理した事象は、情報漏洩ではなく、契約者以外の閲覧が発生し得る状況を早期に把握し、運用を是正するための警鐘です。管理の緩みが信用構造に影響を及ぼしかねないため、関係者各位には接点の点検をお願いしたいと考えています。

目次
記事ではなく事実を蓄積する仕組み
Web上で削除された事件報道が、データベース上で検索できるのは、日本信用情報サービスの反社チェック・コンプライアンスチェックデータベース「JCIS WEB DB Ver.3」の強みです。
報道記事が削除される理由はさまざまですが、記事が消えたと同時に「事実」までもが消えることはありません。社会的に重要な出来事を正確に記録し、必要に応じて確認できるようにしておくこと。それが、反社チェック・コンプライアンスチェックにおける最も基本的な仕組みです。
日本信用情報サービスのデータベース「JCIS WEB DB Ver.3」には、全国紙をはじめブロック紙、地方新聞から集めた情報が掲載されています。
ご注意いただきたいのですが、これは、掲載している記事データを「転載」しているわけではありません。
報道された「記事そのもの」や「記者の書いた表現」ではなく、発生日時や場所、関係者名、罪名などの「事実情報」を専門スタッフが抽出し、独自に構造化して登録しています。
報道の表現を再利用するものではなく、社会的事実をデータとして整理する取り組みです。
そのため、一次報道が削除されたあとも、「JCIS WEB DB Ver.3」なら事実そのものを正確に判断することができます。法的にも、事実情報の記録は著作権の保護対象にはあたりません。弁護士による確認も経て、適法に運用しています。
複製とは……日本信用情報サービス 顧問弁護士の見解
著作権上の「複製」とは、作品を複写したり、録画・録音したり、印刷や写真にしたり、模写(書き写し)したりすること。そしてスキャナーなどにより電子的に読み取ること、また保管することなどをいうとされています。
条文上は、著作権法第21条で規定されています(「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する」)。日本信用情報サービスのデータ集積は、おそらく、全国に発刊されている公刊物を取り寄せその記事を一つ一つ手作業で入力して、独自のデータベースを作成構築していると理解しています。そうだとすると、世に出ている記事(いつ、どこで、誰が何をして、どうなったという客観的事実)をひたすら入力しているだけであり、複製には、当たらないと考えます。 (日本信用情報サービス 顧問弁護士見解)

不起訴と事実記録のあいだに生じるズレ
年に1、2件あるかないか……ではありますが、「JCIS WEB DB Ver.3」内の記録を削除してほしいと要請を受けることもあります。
「不起訴になったため、名前に係るデータそのものを削除してほしい」という内容です。これは個人の権利として理解できる一方で、社会全体から見れば「事実の空白」を生むことにもなります。
報道の削除と事実の継続。この二つの関係は、近年ますます複雑になっています。事件や処分が報じられた後、当事者が不起訴となるケースもあります。不起訴は無罪とは異なり、証拠や情状を踏まえて起訴を見送る判断です。
不起訴に関する法的整理……日本信用情報サービス 顧問弁護士の見解
不起訴とは、検察官が警察から送られた事件について捜査を行い、その結果として起訴しないと決定する処分のことです。日本の刑事手続では、刑事裁判にかけるかどうかを判断する権限は検察官だけが持っています。不起訴の理由には、嫌疑不十分や起訴猶予など複数の類型がありますが、いずれも裁判で有罪となるものではありません。無罪とは手続の段階や判断主体が異なりますが、刑罰を受けないという点で共通しています。 (出典:日本信用情報サービス 顧問弁護士見解 不起訴に関する法的整理抜粋)
記録の保持と社会的責任
フロント企業の年間収入は3000億円規模とも言われ、経済全体を揺らす存在とされています。企業が反社チェック・コンプライアンスチェックを進める際に過去の経緯を追えない状況が生じると、判断の根拠が薄れかねません。削除の扱いは倫理だけの問題ではなく、社会としてどこまで記録を保持するのかという制度上の課題へとつながる構図です。
日本信用情報サービスでは、こうした削除要請を単なる依頼として受け取るのではなく、「社会的に残す必要のある情報かどうか」という視点で慎重に判断しています。報道が削除されても、社会の安全を支えるために残すべき情報はあります。
情報を残すことは、人を裁くことではありません。取引先や雇用先が判断するための材料として、事実を正確に提示することが目的です。

契約者外閲覧を生じさせないための運用
日本信用情報サービスは、反社会的勢力と関わりのある企業とは一切契約しません。
販売会社との契約においても、最終的にデータベースを利用する顧客のレベルまで、徹底してクリーンでなければならないと考えています。
それが、信用情報を扱う企業としての最低限の責任です。
では、なぜ日本信用情報サービスのデータベース「JCIS WEB DB Ver.3」を閲覧したという人物から、削除依頼が届くのでしょうか。
日本信用情報サービスでは、データベース「JCIS WEB DB Ver.3」を使用する企業に対し、厳重な審査があります。本来、そのデータにアクセスできるのは、正規の販売契約を結んだ企業だけです。
もし不適切な経路で情報が閲覧されているとすれば、そこには必ず点検すべき接点があります。販売会社を含め、どこまでもクリーンな体制を貫いてこそ、私たちは他社の企業情報を守る立場に立てます。契約企業の皆様には、改めて「契約者以外による閲覧」を生じさせない運用に目を向けていただきたいと考えています。
信頼を支える姿勢と変わらない責任
信頼という言葉の上に成り立つ商売に、あいまいさは許されません。
創業以来、情報の正確さと機密保持を第一に積み重ねてきました。
創業から8年が経ち、利用企業も2200社を超え、私たちの知らないところで情報が動くようになったとすれば、それは決して成長ではありません。
信用情報を扱う企業として、情報の流出や不正な閲覧はあってはならないことです。
ひとつの接続、ひとつの閲覧を軽んじれば、全体の信頼構造が崩れます。
反社チェック・コンプライアンスチェックの本質は、排除ではなく、正確な判断を支えることにあります。事実情報を正確に整理し、必要な人が必要なときに確認できる仕組みを整えること。その積み重ねが、企業の信用を守り、社会全体の安全を支えています。
記事が消えても、社会のリスクは消えません。だからこそ、私たちは事実を残すことに責任を持ちます。それが、日本信用情報サービスの役割であり、変わらない姿勢です。