日本信用情報サービス株式会社
情報分析部
関口美由紀
地面師詐欺は、不動産取引を装った巨額詐欺として広く知られています。以前、日本信用情報サービスのコラムで地面師詐欺を取り上げた際には、多くの反響をいただきました。
今回は、その背後で密接に絡むマネーロンダリング(資金洗浄)の実態と、企業が講じるべき防衛策について解説します。
地面師詐欺は、不動産取引を舞台にした劇場型の犯罪です。複数の役割を担うメンバーがチームを組み、それぞれの巧みな手口で被害者を欺きます。
中でも『なりすまし役』は、この詐欺に欠かせない存在です。彼らは実在する地権者になりすまし、戸籍謄本や住民票を不正に入手して、印鑑証明や銀行口座を偽造します。交渉の場では、地方訛りや地元の話題を使って本人を装い、巧みに信憑性を高めます。 また、『裏方役』も、詐欺計画を陰で支える重要な役割を果たしています。中には、弁護士として活動していた経歴を持つ者が含まれ、法律知識や交渉術を悪用して取引を正当化するよう装います。このような分業体制によって、詐欺の成功率は大幅に引き上げられるのです。
▲日本信用情報サービス主催オンラインセミナー資料より
こうした役割分担と綿密な計画のもと、詐欺グループは被害者を徹底的に欺き、巨額の資金を詐取します。被害者が異変に気付いた時には、すでに資金はマネーロンダリングによって複雑に隠蔽されており、取り戻す手段は極めて限られています。
▲出典:警察庁「令和6年度版警察白書」 第4章4節(P145)より
こうしたマネーロンダリングの手法は、行政側でも対策が進められています。令和6年版 警察白書によれば、『マネー・ローンダリング事犯』の検挙件数は前年比で大きく増加し、詐欺がその主要な前提犯罪となっています(図表4-23参照)。暴力団構成員や外国人犯罪者が関与する事例も多く、犯罪グループはますます多様化・巧妙化している実態が明らかです。
特に、不動産取引を悪用する地面師詐欺は、その大規模さや手口の巧妙さから、マネーロンダリングの一環として注目されています。以下に、近年発生した地面師詐欺の中でも、その手口や被害規模が話題となった事例を挙げます。
- 2015年9月 富ヶ谷「台湾華僑なりすまし」事件
台湾在住の地主になりすました地面師が、東京都渋谷区富ヶ谷の土地を売却し、不動産会社から 6億5000万円 を詐取。
- 2016年10月 新橋「白骨死体地主」事件
白骨死体で発見された地主の土地を巡り、地面師グループが新橋の一等地を偽の書類で売却し、 16億円 を詐取。
- 2017年6月 積水ハウス地面師詐欺事件
東京都品川区「海喜館」跡地の取引で、積水ハウスが偽の所有者に騙され、 55億5000万円 を損失。
- 2017年11月 赤坂「APA地面師詐欺」事件
東京都港区赤坂の土地取引で、地面師グループがAPAグループを騙し、 12億6000万円 を詐取。
これらの事件では、大企業や不動産会社が標的となることが多く、被害額の巨額さに加え、社会的な影響も非常に大きいのが特徴です。詐取された資金は、巧妙なマネーロンダリング・資金洗浄の手法によって多くの銀行口座を経由し、分散・移動されるため、追跡は極めて困難になります。
マネーロンダリングとは、不正に得た資金の出所を隠し、合法的な資金に見せかける行為を指します。そのプロセスは次の3段階で進行します。
・プレースメント(分散):不正資金を金融機関などに流入させ、分散させる。
・レイヤリング(取引の複雑化):資金を複数の口座や取引を通じて移動させ、流れを複雑化する。
・インテグレーション(合法化):最終的に資金を表面上、合法な形で経済活動に組み込む。
この段階を経て資金の追跡が難しくなる中で、近年の詐欺グループは短期間で資金を海外へ移転させる手口を一般的に用いるようになっています。仮想通貨の活用、ペーパーカンパニーの設立、さらには貿易取引の不正操作など、資金隠匿の手法は技術の進化とともに高度化し、ますます巧妙になっています。
▲出典:警察庁「令和6年度版警察白書」第1部2節(P19)より
令和6年度版警察白書にも記載されているように、こうした捜査機関の努力にもかかわらず、マネーロンダリングによる資金隠蔽はますます巧妙化しており、被害額の全額回収は極めて困難な状況が続いています。その結果、被害者は経済的な損失だけでなく、心理的な負担や信用の喪失といった深刻な二次被害にも直面しています。さらに、裁判の長期化や複数の被害者間での資金回収競争が問題を一層複雑化させ、被害者の負担を増大させています。
このような状況を踏まえると、被害発生後の対応だけでなく、未然に被害を防ぐための対策を講じることが、企業や個人にとって何よりも重要です。特に、詐欺グループの巧妙な手口を事前に見抜き、取引リスクを最小化する取り組みが求められています。
こうしたリスクを未然に防ぐ有効な手段が、日本信用情報サービスの『反社チェック』です。不動産取引をはじめとする重要な取引において、事前に相手のリスクを把握し、適切な防衛策を講じることで、地面師詐欺などの被害を防ぐことが可能になります。
日本信用情報サービスでは、日本最大級のデータベースを保有し、反社情報の即時検索を可能にする、業界唯一のシステムを提供しています。このデータベースには、全国紙では取り上げられない地方紙やネット記事、独自の調査情報、さらには国内で唯一警察関連情報や報道資料が含まれており、精密な分析による高精度なリスク検出を実現しています。
また、商業・法人登記情報検索機能を活用すれば、PDF形式の登記情報をアップロードするだけで、記載された役員や法人名を自動抽出し、反社会的勢力データベースと即時に照合することが可能です。一度に最大1,000件までのデータを処理できるため、大規模な取引先のチェックも効率的に行えます。さらに、検索結果はPDFやCSV形式で出力でき、柔軟なデータ管理をサポートします。
海外の反社情報にも対応し、140万件以上のPEP(政治的に重要な人物)情報や250万件の否定的なメディア情報を活用可能です。多言語対応に加え、競争力のあるコストパフォーマンスにより、特に取引金額が大きくなる不動産取引や大口契約における反社会的勢力の特定に強みを発揮します。
これらの取り組みにより、迅速かつ正確なリスク評価を実現し、企業や個人が直面し得る多様なリスクを未然に防ぐことで、安全で信頼性の高い取引環境の構築に貢献します。
導入のメリットとしては、契約前に反社リスクを特定できるため詐欺の芽を摘む「早期発見」が可能である点が挙げられます。また、反社チェックを実施することで取引先や顧客からの信頼性が向上し、企業の評価が高まります。さらに、金融機関や大企業に課されるコンプライアンス要件を満たすことで、法令遵守の観点からも大きな効果を発揮します。このような取り組みを実践することは、リスク回避の要であり、企業の持続可能な成長を支える基盤とも言えます。
何より重要なのは、企業防衛の第一歩として『疑うこと』を忘れない姿勢です。企業が受ける被害を防ぐには、日々の取引や判断において慎重さを持ち、書類や取引相手が本当に正当かどうかを常に確認することが不可欠です。例えば、提出された書類の真偽を第三者機関で再確認する、取引相手の過去の実績を詳しく調査するなどの基本的なプロセスを怠らないことが、詐欺や不正のリスクを大きく減らします。
一瞬の油断や確認不足が、思わぬ被害を招く可能性があります。企業防衛には、慎重な姿勢と疑念を持つことが何よりも重要です。
地面師(不動産)詐欺をはじめ、大きな金額が絡む特殊詐欺やマネーロンダリングは、企業の経営や信用に深刻な脅威を及ぼします。被害額を取り戻すことが困難である以上、被害を未然に防ぐ予防策が何よりも重要です。そのためには、最新の情報を常に収集し、信頼できる反社チェックツールを活用することで、リスクを最小化する取り組みが不可欠です。
日本信用情報サービスの反社チェックは、企業の安全を守り、リスクのない取引環境を実現するための強力なソリューションです。このツールを活用することで、安心できるビジネス基盤を構築し、信頼される企業として持続可能な未来を築くことが可能です。ぜひ日本信用情報サービスをご活用ください。
企業の安全を守り、リスクのない取引環境を実現するために、日本信用情報サービスでは、さまざまな取り組みを行っています。その一環として、2024年10月10日に開催したオンラインセミナー『地面師詐欺と取引時の注意について』で公表した資料を一部ご紹介します。
※コラムに掲載する資料には一部画面加工が施してありますが
オンラインセミナーでは、加工なしで発表しております。
▲参考資料 日本信用情報サービスオンラインセミナー『地面師詐欺と取引時の注意について』より
(実際は、黒塗り加工無し・実名入りで解説しています)
この事件に関与した会社の登記簿を確認すると、旧体制から新体制への移行時に全役員が変更され、結果として登記簿上では「クリーンな新会社」として登録されています。しかし、閉鎖登記簿を遡って個人名を調査し、日本信用情報サービスのデータベースを活用することで、旧体制と新体制の関連性や関係者の裏情報を読み解くことが可能です。
新会社は社名を後株から前株に変更し、過去の履歴を追跡しにくくしています。また、新役員には実質オーナーの愛人や元副大臣の妻が含まれており、愛人はオーナーが動かしやすい人物として、元副大臣の妻の名前は会社の信頼感を装うために利用された可能性があります。
登記情報の改変は詐欺計画の「隠れ蓑」となるため、関係者全員の役割を徹底的に精査することが重要です。
▲参考資料 日本信用情報サービスオンラインセミナー『地面師詐欺と取引時の注意について』より
(実際は、黒塗り加工無し・実名入りで解説しています)
こちらは、日本信用情報サービスのデータベースに登録されている、積水ハウス地面師事件の主犯とされる人物3名の実名を含むデータです。日本信用情報サービスでは、この事件に関連する人物の情報を2015年時点から登録しており、当時から『地面師・詐欺』と明記されていました。現在、3名とも服役中であり、2024年12月現在、懲役11年が言い渡されています。
犯人が逮捕されても奪われた55億円以上の被害金は、巧妙なマネーロンダリングにより隠蔽され、回収はほぼ不可能な状況です。このような状況では、被害者は経済的損失だけでなく、心理的な負担や信用喪失といった二次的被害にも直面し、泣き寝入りを余儀なくされるケースが後を絶ちません。
こうした現状を踏まえると、大規模な詐欺被害を防ぐには、事前の反社チェックやリスク管理が欠かせません。日本信用情報サービスでは、これまで培ったデータベースを基に、企業や個人が取引リスクを回避できるソリューションを提供しています。
今後も、極秘資料を基にしたセミナーを開催し、詐欺やマネーロンダリングに関する核心に迫る情報をお届けします。セミナーでは、ここでしか得られない具体的な裏情報を交え、より深い洞察を提供していく予定です。ぜひ、日本信用情報サービスのオンラインセミナーにご期待ください。
地面師詐欺やマネーロンダリングは、巧妙さを増す一方で、被害者の負担をますます重くしています。このようなリスクを避けるためには、信頼できる情報とツールを活用し、慎重な判断を行うことが欠かせません。 日本信用情報サービスの反社チェックは、こうした脅威から企業を守るだけでなく、安全で持続可能な取引環境の構築に貢献します。企業が自らを守るための防衛策を強化することで、信頼と安心の未来を築く一歩となります。ぜひ、リスク管理のパートナーとして日本信用情報サービスをご活用ください。
※本コラムでは、一般的な表記である『マネーロンダリング』を使用していますが、引用元の警察白書では『マネー・ローンダリング』という表記が使用されています。そのため、本文中では2つの言い方を併用しています。ご了承ください。
▲日本信用情報サービス・日本公益通報サービスのH.Pより
日本信用情報サービス株式会社のデータセンターでは、『JCIS Ver3』データを国内最大規模で運用しています。
『JCIS Ver3』では、以下の情報を網羅しています。
- 警察関連情報:全国警察署が発表する犯罪・取り締まり情報を網羅。
- 新聞情報:全国紙や地方新聞全紙に加え、世界中のブラックコンプライアンス情報を収集。
- 行政処分情報:各行政機関によるコンプライアンス違反に関する処分情報を収録。
- 全国警察署の発表情報:地域ごとの最新の犯罪動向や警察発表内容をリアルタイムで反映。
- 反市場的勢力・反社会的勢力情報:金融庁(SESC)や各種報道で取り上げられる反社会的勢力に関する詳細なデータを提供。
- 公安情報:他社では扱えない独自の公安関連情報も収録。
対象となる企業名や氏名を検索画面に入力するだけで、反社やコンプライアンスチェックに必要な情報が一覧表示され、効率的かつ経済的に企業リスクを回避できます。
詳しい事例のご説明やサービスの利用方法についてのご相談も承っておりますので、専用フォームよりお気軽にお問い合わせください。
内部通報とは? ハラスメントとは? 内部不正とは? 外部相談窓口とは?
コンプライアンス関連の解説やご案内、その他コンプライアンス担当者様の頭を悩ませる
職場環境での問題についてクローズアップしています。
◆日本信用情報サービス株式会社 会社概要
代表 :代表取締役社長 小塚直志
設立 :2018年3月
事業 :反社チェックやAML・KYC対策を支援する高度なリスク情報データベースを、あらゆる業界・企業に向けて展開。シンガポールのARI社との提携により、国内外500万件以上のリスク情報を網羅。【検索件数780万件突破】低コストで企業リスク管理を実現したい企業様に最適なサービスを提供します。
URL :https://www.jcis.co.jp/
本社 :神奈川県横浜市中区山下町2番地 産業貿易センタービル9F
東京オフィス:東京都千代田区神田須田町1-4-4 PMO神田須田町7F
大阪オフィス:大阪府大阪市中央区城見2丁目2番22号
◆日本公益通報サービス株式会社 会社概要
代表 :代表取締役社長 小塚直志
設立 :2023年3月
事業 :企業の内部不正やハラスメントに対する外部相談窓口の設置、専門家による調査・対応支援、セミナー・研修の実施など、包括的なリスク管理ソリューションを提供。【専門家による対応可能】業界最安値で信頼性と実績を基にクライアントの職場環境改善とリスク軽減を支援します。
URL :https://jwbs.co.jp/
本社 :神奈川県横浜市中区山下町2番地 産業貿易センタービル9F
◆一般社団法人 企業防衛リスク管理会 概要
代表 :代表理事 小塚直志
設立 :2023年5月
事業 :オンラインセミナー・研修を含む多様なサポートの提供。信頼と実績を基に、安心・安全な職場環境の実現を強力に支援します。また、企業リスク回避のための探偵調査やカスタマーハラスメント対応の相談も承ります。【会員制倶楽部】会員間の交流を深める懇親会も定期的に開催中です。
本社 :神奈川県横浜市中区山下町2番地 産業貿易センタービル9F