日本信用情報サービス株式会社
情報分析部
関口美由紀
2024年に発表された『令和6年版警察白書』において、
『匿名・流動型犯罪グループ(通称:トクリュウ)』に関する記事が掲載されました。
これを受け、日本信用情報サービス株式会社がニュース等で報じられた事件を基に調査した結果をご報告いたします。
近年、高齢者を狙った強盗事件が全国で多発しており、匿名・流動型犯罪グループが関与しているとされています。全国の警察の発表によれば、今年4月から10月の間に4000人以上が摘発されており、その多くがSNSを通じて「闇バイト」に応募した若年層でした。
SNSで見つけた高収入の求人に軽い気持ちで応募した若者が、個人情報を握られ、反社会的勢力の指示に従わざるを得なくなるケースが増える一方、これらのグループはSNSを利用して短期間でメンバーを集め、特定のターゲットを狙った詐欺行為を繰り返しています。さらに、最近では詐欺行為にとどまらず、強盗犯罪にまで手を染める事例が増加し、人命が奪われる深刻な事態へと発展しており、もはや「遊ぶ金欲しさに」という動機では片付けられない現実が浮き彫りになっています。
匿名・流動型犯罪グループ、通称『トクリュウ』とは、特定の組織やリーダーを持たず、構成員が流動的に入れ替わりながら犯罪を行う集団を指します。
インターネットやSNSの普及により犯罪の匿名性が高まり、短期間で集団を形成し、素早く犯行に及ぶケースが増えています。また、SNSや掲示板を利用してメンバーを募集し、犯行ごとに構成員を入れ替えた後、即座に解散するため、追跡や摘発が非常に困難です。
匿名・流動型犯罪グループに対して、従来の取組をそのまま踏襲するだけでは、有効な対策を講じることはできません。同グループは、特殊詐欺をはじめとして、強盗・窃盗、違法な風俗営業等、様々な分野で多 様な資金獲得活動を行っています。警察では、部門ごと、都道府県警察ごとにそれぞれ対策を進めるのでは なく、これらの垣根を取り払い、同グループに対する戦略的な実態解明、取締りを推進しているところです。【令和6年度版警察白書 国家公安委員会 警察庁, 2024】
かつての犯罪は、明確な上下関係を持つ暴力団のような組織的なグループが主体で、日本信用情報サービスの反社チェックデータベースにも登録されています。
これに対し、従来の犯罪形態とは異なる特性を持つ匿名・流動型犯罪グループは、SNSや掲示板を活用して緩やかなネットワークを形成。犯行のたびにメンバーを入れ替えることで、警察の摘発を巧妙に回避してきました。
特殊詐欺では、「受け子」や「出し子」といった末端の役割を若者が担うケースが増えています。『令和6年度版 警察白書』によれば、こうした犯罪に関与している自覚がない若年層も少なくなく、この現象はリクルート型詐欺と呼ばれる新たな手法が広がっていることを示しています。特に、「一回きりの仕事」や「高収入アルバイト」として求人サイトやSNSで募集されるこれらの役割では、応募者に犯罪の詳細を伏せたまま、役割分担を前提とした仕組みが特徴です。このような手法のため、従来の組織犯罪で見られたリーダーの特定が難しくなり、犯罪捜査はさらに複雑化しています。
近年、準暴力団に加えて、新たな特徴を有する犯罪集団が台頭し、治安対策上の脅威と なっている。それが、「匿名・流動型犯罪グループ」である。警察が従来対峙じしてきた暴力団は、構成員 同士が擬制的な血縁関係によって結び付き、多くの場合、「組長」の統制の下に、地位の上下によって階 層的に構成されており、組織の威力を背景に又は威力を利用して資金獲得活動を行っていた。これに対し、 匿名・流動型犯罪グループは、各種犯罪により得た収益を吸い上げる中核部分は匿名化されており、また、SNSや求人サイトを通じるなどして緩やかに結び付いたメンバー同士が役割を細分化させ、その都度、末端の実行犯を言わば「使い捨て」にするなど、メンバーを入れ替えながら多様な資金獲得活動を行うため、組織の把握やメンバーの特定が容易ではないという特徴を有している。
こうした匿名性、流動性を利用し、特殊詐欺、強盗・窃盗等の様々な事案に関与して資金を獲得してい る匿名・流動型犯罪グループに対し、従来どおりの手法では、その組織構造や内部統制、資金の流れを解 明し、有効な対策を講じることは困難であることから、警察では、暴力団対策を中心としたこれまでの組織犯罪対策の在り方を抜本的に見直し、匿名・流動型犯罪グループに対する戦略的な実態解明、取締りを 推進している。
匿名・流動型犯罪グループの中には、その資金の一部が暴力団に流れているとみられるものや、暴力団 構成員をグループの首領やメンバーとしているもの、暴力団構成員と共謀して犯罪を行っているものも確認されている。暴力団と匿名・流動型犯罪グループは、何らかの関係を持ちつつ、両者の間で結節点の役割を果たす者も存在するとみられる。【令和6年度版警察白書 国家公安委員会 警察庁, 2024】
匿名・流動型犯罪グループの問題の本質は、その匿名性にあります。インターネットが普及する以前は、犯罪行為には身元が特定されるリスクが伴っていましたが、現在では、SNSアカウントや匿名性の高い通信アプリを駆使し、個人情報を隠したまま犯罪に加担することが可能になっています。
この匿名性は、逮捕を免れる手段であるだけでなく、心理的な抵抗感を弱める役割も果たしています。名前を明かさず顔を合わせることもない、見ず知らずの他人と一時的に手を組むだけの「闇バイト」は、犯罪行為への倫理的抵抗感が薄れやすくなり、特に未成年や若年層がターゲットにされる大きな要因となっています。
こうした若年層の中には、「指示された通りに荷物を運んだだけ」「指定されたATMに行っただけ」と、犯罪を単なるアルバイト感覚で認識している人も少なくありません。しかし、こうした行動が積み重なり、特殊詐欺による被害総額は年間数千億円にも達し、社会に甚大な影響を与えています。
中には「ホワイト案件です」と偽り、応募者を騙す手口も見られます。これにより、応募者は犯罪に加担していることに気づかないまま行動してしまう場合が多いのです。こうした手口の背後には、日本信用情報サービスのデータベースに登録されている反社会的勢力の関与が見られます。
▲非行防止・広報啓発活動従事者用資料に基づく
犯罪実行者募集の実態~ 少年を「使い捨て」にする「闇バイト」の現実 ~ 警察庁
警察は、犯罪に巻き込まれた若者の実例を紹介する広報資料を作成し、学校での講演やワークショップを通じて啓発活動を進めています。一方、SNS運営会社には、詐欺や違法な求人に関する不審な投稿を積極的に監視し削除する体制の強化が求められる状況です。また、若者が経済的困窮に陥らないよう、給付型奨学金の拡充や若年層向けの支援制度といった社会的セーフティネットの整備も喫緊の課題といえるでしょう。
匿名・流動型犯罪グループによる犯罪の実行犯の募集
匿名・流動型犯罪グループは、犯罪を敢行するに 当たって、SNS等において、「高額バイト」等の表現を用いたり、仕事の内容を明らかにせずに著しく高額な報酬の支払を示唆したりするなどして、犯罪 の実行犯を募集している実態が認められる。同グループは、このような犯罪の実行犯を募集する情報 (犯罪実行者募集情報)への応募者に対して、あらかじめ運転免許証や顔写真等の個人の特定に資する 情報を匿名性の高い通信手段を使用して送信させることで、応募者が犯行をちゅうちょしたり、グループ からの離脱意思を示したりした場合には、個人情報を把握しているという優位性を利用して脅迫するなどして服従させ、実行犯として繰り返し犯罪に加担させるなどの状況がみられる。また、応募者が犯罪 を敢行したとしても約束した報酬が支払われない場合もある。【令和6年度版警察白書 国家公安委員会 警察庁, 2024】
匿名・流動型犯罪の拡大は、単なる警察の取り締まり不足だけでは説明できません。この問題の根底には、日本社会が抱えるいくつかの構造的課題が存在しています。
まず一つ目は、経済的な不安定さです。特に新型コロナウイルスの感染拡大以降、非正規雇用の増加や若年層の所得低下が顕著になっています。『令和6年度版 警察白書』によれば、「高収入」「即日払い」といった条件に惹かれる若者の多くが、経済的困窮や将来への不安を抱えています。この状況は、犯罪グループが若者を「使い捨て駒」として利用する温床になっています。
二つ目は、教育や家庭環境の問題です。若年層が犯罪に巻き込まれる背景には、倫理観や社会的責任が十分に形成されていないことが指摘されています。家族や学校での適切な教育やサポートの不足が、犯罪へのハードルを下げる要因となっています。
青少年をアルバイト感覚で犯罪に加担させない教育・啓発
匿名・流動型犯罪グループは、犯罪を敢行するに当たって、 SNS等において犯罪の実行者を募集している。目先の利益を手に入れるため安易にこれに応募した青少年が、「指示されるままに次々と犯罪を敢行し、その上、一切の報酬が支払われなかった」、「犯罪グループから警察に密告され、逮捕された」といった事例にみられるように、犯罪グループは、青少 年を都合よく利用するなど、言わば「使い捨て」にしている 実態が認められる。
警察では、青少年が事の重大性を十分に認識することなく、 アルバイト感覚で犯罪に加担してしまうことのないよう、関係機関とも連携して、様々な機会や広報媒体を活用して広報啓発を強化している。令和5年7月には、少年が犯罪実行者募集情報への応募をきっかけに犯罪組織に使い捨てにされ、検挙されるまでの実態を紹介 した広報資料を作成し、非行防止教室等において、犯罪実行者募集情報の実態、犯罪へ加担することの 危険性、犯罪組織の悪質性について発信している。【令和6年度版警察白書 国家公安委員会 警察庁, 2024】日本信用情報サービスには、全国各地から毎日大量の新聞が届けられます。そこから事件情報を選別し、データベースに登録する作業を40人態勢で行っていますが、特に匿名・流動型犯罪で「捨て駒」として利用される若者に関連する新聞記事には、「こんな普通の子が犯罪者になるなんて」と、その現実に驚かされます。
『令和6年度版 警察白書』では、犯罪に対応するための具体的な施策がいくつか示されています。SNSや暗号化通信の解析技術を駆使し、犯罪者の匿名性を排除する取り組みの本格的な推進や、犯罪被害を未然に防ぐための啓発活動など。若年層に対して「怪しい求人」や「高収入」を謳うアルバイトのリスクを知らせるためにも、未成年への倫理観や社会的責任を教えることの重要さが鍵となっているように思います。
SNSに起因する事犯
SNSは、匿名で不特定多数の者に瞬時に連絡を取ることができる特性から、児童買春等の違法行為の「場」となっている状況がうかがえる。また、令和5年中、SNSに起因して犯罪被害に遭った児童の数は、1,665人と前年 からは減少したものの、依然として高い水準で推移している。フィルタリング(注)の利用の有無が判明した被害児童 のうち約9割が被害時にフィルタリングを利用していな かった。
このような状況を踏まえ、警察では、関係機関・団体等 と連携し、保護者に対する啓発活動、児童に対する情報モラル教育、スマートフォンを中心としたフィルタリングの普及促進等の取組を推進している。
また、SNS事業者に対し検挙事例等に関する情報を提供するなど、事業者による自発的な被害防止対策の実施を促進している。【令和6年度版警察白書 国家公安委員会 警察庁, 2024】
暴力団追放運動推進都民センターは、2024年11月12日に都民大会を開催。その中で緒方禎己警視総監は匿名・流動型犯罪グループについて「治安上の大きな脅威」と発言し、官民一体の連携を呼び掛けました。日本信用情報サービスの見解では、警察の取り締まりだけでなく、社会全体の意識改革が不可欠であると考えています。勤労意欲が低下した若者は、楽な方へと流されてしまいがちです。反社会的勢力の予備軍を作らないためにも、子供たちの社会教育を見直しが重要です。子供のプライバシーにも深くかかわる問題ですし、教育方針に至ってはご家庭による都合もあるかと思います。しかし、未成年者が犯そうとしている過ちに、早い段階で検知することが何よりも大切ではないでしょうか。
この課題は、企業防衛にも直結する重要なテーマです。日本信用情報サービスが提供する『JCIBWEB DB Ver3』では、新聞記事やWEB検索などの公知情報に加え、国内で唯一警察関連の独自情報を活用しています。さらに、『JCIS WEB DB Ver3』は、登記情報PDFデータをアップロードすることで、商号や役員名を全て抽出し、一括検索できるシステムを提供しています。こうしたツールを活用することで、犯罪の温床を断つための具体的な取り組みが可能となります。日本信用情報サービスのデータベースを利用することで得られる安心安全な企業との関わりが、大切な会社を守る企業防衛へと繋がります。
匿名・流動型犯罪グループの活動は、その匿名性と流動性を武器に、従来の犯罪組織とは異なる形で広がり続けています。この問題は、企業や個人にとってだけでなく、国際社会全体にとっても深刻な課題です。国際的な連携や法整備など、解決すべき課題は依然として多いのが現状です。
▲非行防止・広報啓発活動従事者用資料に基づく
犯罪実行者募集の実態~ 少年を「使い捨て」にする「闇バイト」の現実 ~ 警察庁
匿名・流動型犯罪グループの活動は日々巧妙化を続け、一部の関係者を逮捕しても実行犯と首謀者が分離しているため、組織全体を壊滅させることが難しいという課題が残されています。匿名・流動型犯罪グループの増加は、単なる犯罪形態の変化にとどまらず、社会全体に深刻な警鐘を鳴らす問題です。これに立ち向かうためには、警察や関係機関、そして私たち一人ひとりが協力し、匿名性に隠れる犯罪者たちの影響力を減らすために具体的な行動を起こす必要があります。
企業におけるリスク管理意識も、新たな犯罪が広がる現状では重要な課題です。
一般社団法人企業防衛リスク管理会は、企業危機管理の情報発信やビジネス交流を通じて、安心安全な経済活動を促す一般社団法人です。企業危機管理業務として、コンプライアンスやハラスメント対策の知識・防止策を発信することを目的として設立されました。オンラインセミナーやクリーンなビジネス交流の場はもちろん、企業リスク回避のための『探偵調査』や『カスタマーハラスメント対応事業』など、企業の安心安全を支える多様なサービスを提供するため準備を進めています。ご期待ください。
社会が抱えるこの問題に対し、今こそ真剣に向き合い、具体的な対策を講じる時が来ています。犯罪の進化は止められませんが、それに対抗するために、私たちの対応策が鍵を握っています。企業における危機管理対策も同様です。この新たな脅威から企業を守るためには何ができるのか。今こそ考え、行動を起こすべき時であると、日本信用情報サービスは考えます。
日本信用情報サービス株式会社のデータセンターでは、『JCIS Ver3』データを国内最大規模で運用しています。
『JCIS Ver3』では、以下の情報を網羅しています:
- 警察関連情報:全国警察署が発表する犯罪・取り締まり情報を網羅。
- 新聞情報:全国紙や地方新聞全紙に加え、世界中のブラックコンプライアンス情報を収集。
- 行政処分情報:各行政機関によるコンプライアンス違反に関する処分情報を収録。
- 全国警察署の発表情報:地域ごとの最新の犯罪動向や警察発表内容をリアルタイムで反映。
- 反市場的勢力・反社会的勢力情報:金融庁(SESC)や各種報道で取り上げられる反社会的勢力に関する詳細なデータを提供。
- 公安情報:他社では扱えない独自の公安関連情報も収録。
対象となる企業名や氏名を検索画面に入力するだけで、反社やコンプライアンスチェックに必要な情報が一覧表示され、効率的かつ経済的に企業リスクを回避できます。 詳しい事例のご説明やサービスの利用方法についてのご相談も承っておりますので、専用フォームよりお気軽にお問い合わせください。
内部通報とは? ハラスメントとは? 内部不正とは? 外部相談窓口とは?
コンプライアンス関連の解説やご案内、その他コンプライアンス担当者様の頭を悩ませる
職場環境での問題についてクローズアップしています。
日本信用情報サービス株式会社 会社概要
代表 :代表取締役社長 小塚直志
設立 :2018年3月
事業 :企業向け反社データベースの提供、KYC,eKYC,AMLに関するコンサルティング
URL :https://www.jcis.co.jp/
本社 :神奈川県横浜市中区山下町2番地 産業貿易センタービル9F
東京オフィス:東京都千代田区神田須田町1-4-4 PMO神田須田町7F
大阪オフィス:大阪府大阪市中央区城見2丁目2番22号