コラム

Column

「反社チェック」という詐欺 series1

2026年2月17日

日本信用情報サービス株式会社
情報分析部
関口美由紀

【詐欺とは】
人を欺いて財産的利益を得る犯罪行為
誤解や安心を利用して判断を誤らせる行為や構造
つまり、考える余地を奪うということ。

機能しなかった反社チェック

2017年、積水ハウスは地面師詐欺事件により、約55億円という巨額の被害を受けました。不動産取引の現場で起きた、戦後最大級とも言われる事件です。この事件が社会に与えた衝撃は、金額の大きさだけではありません。日本を代表する企業が、なぜここまで見事にだまされたのか。その背景にあったのは、「確認していたつもり」という安心感でした。

当時、取引先確認や人物確認は、名刺管理を主体とする反社チェックサービスに依存していました。しかし、名刺に記載された情報が真実である保証はどこにもありません。記事検索型データベースやAIによる判定も同様です。元となる情報に到達できなければ、それは反社チェックとして機能しません。

失敗の本質

ここで問うべきは、詐欺師の手口ではありません。なぜ、その人物に到達できなかったのか。この一点です。

事件当時、日本信用情報サービスの反社チェック・コンプライアンスチェックには、地面師事件の主犯人物情報が掲載されていました。この事実は、他社サービスとの情報の種類と深さの差を示しています。

到達を可能にする3つの条件

日本信用情報サービスと他社サービスの差は、大きく3点に集約されます。

日本信用情報サービスと他社「反社チェック」との3つの違い

【地方新聞の紙面に掲載された記事を収集】
全国ニュースになる前段階の情報や、地域紙にしか掲載されない実名記事も対象です。

【警察関連情報を保有】
すべてが公表情報ではなく、捜査段階や周辺情報として蓄積されてきた内容も含まれます。

【同一性チェック】
同姓同名で切り捨てるのではなく、年齢、地域、経歴、過去の関係性を
突き合わせ確認する工程が入ります。

この3点が欠けた反社チェックでは、詐欺事件や反社会的勢力に関わる人物に行き着かないのは、むしろ当然です。

定義されないまま広がる反社チェック

ここからが本質的な問題です。

現在の反社チェック市場には、最低品質基準が存在していません。どの程度の情報量を保有していれば反社チェックと呼べるのか。どの範囲の媒体を収集していれば十分と言えるのか。何を調査対象から除外しているのか。これらを業界として定義する仕組みが存在しないまま、「反社チェックを実施した」という結果だけが成立してしまいます。

地方紙情報の現実

たとえば、地方紙情報を保有しているという表現は成立します。数百件でも、保有していると言えるからです。しかし、利用企業が期待しているのは、地方紙情報に到達できる状態です。どの地域をカバーしているのか。どの年代まで遡れるのか。現在も継続収集されているのか。こうした情報が示されない限り、「地方紙情報を持っている」という言葉は品質保証にはなりません。

地方新聞には、反社会的勢力に関する重要情報の80%が掲載されています。日本信用情報サービスの反社チェック・コンプライアンスチェックサービス『JCIS WEB DB Ver.3』には、日本データ分析センターで収集された地方新聞記事の実名が収録されています。
国内でこのレベルの網羅性を持つデータは存在しません。

詐欺と似た構造

これは単純な虚偽の問題ではありません。誤認を誘導しやすい構造です。

AIを使っている、新聞データを持っている、データベースを保有している。これらの表現は事実として成立します。しかし、その中身が利用者の想定と一致しているとは限りません。

そして、この構造は、専門性や実績を前面に提示し、実態の検証を困難にするビジネスモデルと極めて近い性質を持ちます。

品質を測れない市場

反社チェックという言葉には、法律上の定義が存在しません。極端に言えば、インターネット検索だけでも、反社チェックを実施したと言えてしまいます。

何を調べたのか。
何を調べていないのか。
どこまで到達できないのか。
これが公開されない限り、「反社チェックをした」という事実は、企業防衛の根拠にはなりません。

つまり、「反社チェックサービス」という看板は、中身が伴わなくても成立してしまう商売なのです。
この構造は、詐欺と非常によく似ています。

反社チェック業界の本質的な問題は、精度ではありません。検証不能性です。中身を確認できないまま、「実施した」という安心感だけが先に成立する。この構造そのものが、企業にとってのリスクになります。

この構造を「反社チェック」と呼んでいいのか

反社チェックが出来ます。この言葉を、そのまま受け取るべきではありません。言葉ではなく、中身を確認する。それができない限り、反社チェックは企業を守る行為にはなりません。

反社チェックという言葉を掲げながら、調査範囲、データの内容、品質基準も示さない。

それでも「反社チェックサービス」を名乗れてしまう。
この構造は、詐欺と何が違うのでしょうか。

「反社チェック」を巡る構造

たとえば、投資詐欺や情報商材詐欺では、「必ず儲かる」「専門家が監修している」「多くの実績がある」といった言葉が先に並び、肝心の中身が見えないのが特徴です。

「反社チェック」を巡る構造も、同じです。

多くの反社チェックサービスは、「インターネット上で取得可能な情報」「既にデジタル化された記事」「大手メディアや全国紙のデータ」こうした範囲に依拠し、判断の材料は後回し。

その結果、「反社チェックを行った」という事実だけが残り、何を見て、何を見ていないのかが検証されないまま次の判断に進んでしまうのです。

積水ハウスの地面師詐欺事件は、その危うさをはっきり示しました。

「反社チェックが出来ます」という言葉を、まず疑う

「簡単」「早い」「安い」「全国紙データ網羅」「AI検索」そんな言葉に騙されて「反社チェック」をやったつもりになっている。
今、企業側が問われているのは、その一点です。

「反社チェックをした」と言うためには、本来、満たすべき条件があります。

これらを示さないまま使われる「反社チェックが出来ます」という言葉は、判断の根拠にはなりません。
言葉ではなく、中身を問う。
それが出来ない限り、反社チェックは企業を守る行為には、ならないのです。